ポンちゃんは、黄色い小さな犬で、目が丸くて眉毛が高く、いつも目を見張っているように見える。鼻の下の口ひげがポンちゃんの顔を際立たせていて、また、横に突き出た耳の上にオレンジ色のベレー帽をかぶっているのが特徴である。
4コマ漫画に登場するポンちゃんは、無表情な顔でおかしな行動をとり、いつも友人や見知らぬ人を助けている。そのせいか、物静かなポンちゃんにも、寂しくないようにいつもそばを飛んでくれる鳥のピンや、いつも笑顔でみんなを癒してくれる心優しい花のロドリゲスなど、友達がたくさんいる。
「こんにちは、キャラクターデザイナーのかなざわまことです。今日は皆さんにお会いできてとても嬉しいです。よろしくお願いします」 キャラクターデザイナーで『おひげのポン』の生みの親であるかなざわまことは、自身が描くキャラクターと同じようなニコニコした人懐っこい表情で挨拶をした。
学生時代には柔道部に所属し、その後、お菓子のパッケージデザイナーとして働いたり、スーツの仕立て屋で採寸のアルバイトをしていたかなざわまことが、どのようにして、キャラクターデザイナーとして、温かくてかわいらしいストーリーを伝える『おひげのポン』で人々に愛されるようになったのか。彼のこれまでの軌跡とキャラクター制作の考え方の裏側を皆さんと一緒にのぞいてみたい。
かなざわまこと(金澤信)1982年新潟県生まれ、さいたま市在住。まず、私たちは彼に、絵やアートに最初に興味を持ったきっかけについて少し話してもらった。
「私は子供の頃からずっと柔道部に所属していて、有名な高校の柔道部に入部することにしました。それまで柔道をやってたときは、勝ち負けしかないじゃないですか? でも高校に入学して、ある美術の先生に出会ったんです。その先生は『この世にあるのは勝ち負けだけじゃないよ。君の世界もあれば、あの人やこの人の世界もあるし、まだまだたくさんの世界がある』と教えてくれました。先生はとてもカッコいいと思いましたね。この感動がきっかけになって、ずっとアートに興味を持ってきました」
大学進学のとき、かなざわは東海大学で美術学を学ぶことにし、その後、筑波大学大学院人間総合科学研究科ビジュアルデザイン領域に進学してデザイン教育を専攻し、漫画について修士論文を書いた。
「以前はイラストレーターになりたかったんです。でも、しばらく勉強してみると、いろいろなものを詰め込むことができるキャラクターを作りたいと思うようになりました。ただ、自分が望んでいたものを実現するまでには、かなりの時間がかかりました」と語った。
デザインを専攻し、自分の好きなことがわかっていたにもかかわらず、夢をすぐには実現せずに、かなざわは商品パッケージデザイン会社に初めて就職した。「いろいろなお菓子の箱などのパッケージをデザインしていました。31歳になって、これをやらなきゃという思いがずっと心にひっかかってる感じがして、仕事を辞めることにしました。それからはスーツの仕立ての際の採寸のアルバイトをしながら、絵を描いたりしていました」
アルバイト中にはたくさんの人と話す機会があり、そして、家に帰るとたくさん絵を描いたとかなざわは話してくれた。そんな生活を4年間続け、その間、イラストとキャラクターデザインの仕事を並行して進めた。その後、キャラクターデザイナーとして、NHKのテレビ番組やその他多くの企業のマスコットを制作し、やがて、本格的に自分自身のキャラクターをデザインするようになった。
「イラストとキャラクターデザインの仕事を続けているうちに、年が経つにつれてキャラクターデザインの仕事が増えてきました。6年くらい経った頃に、自分自身のキャラクターデザイン、つまりポンちゃんに集中しようと決めました」
したがって、彼のキャラクターデザイナーとしての道は31歳のときに始まったと言える。
日本には、ウサギ、魚、ペンギン、犬、猫、猿、カエル、羊、さらには生卵などのキャラクターがたくさんいる。では、なぜかなざわはポンちゃんを口ひげを生やした子犬としてデザインしようと思ったのか。
かなざわは笑顔で幼少期の思い出を語る。「このキャラクターは私がなりたかったものから生まれました。私は犬とひげが好きです」 なんと面白い組み合わせだろうか。「子供の頃から犬を飼いたいと思っていましたが、家では犬を飼えませんでした。それで、心に留めておいた気持ちをもとに『おひげのポン』というキャラクターにしたんです。そして何としてもひげを生やしたかった。チャーリー・チャップリンやマリオのヒゲのように、おひげは笑いやユーモアの象徴のようなものです。私は、受け取った人に温かさや優しさが伝わるような作品を作りたいと思っていたので、それらの特徴を幸せとユーモアとともにこのキャラクターに注ぎ込みました。そして、もしおじさん犬だったら、子犬ほど人気がないかもしれないと思ったんです」
日本のほとんどの人は口ひげを生やすことがファッショナブルだと感じているとかなざわは言う。「そして、口ひげを生やしている人には、ハンサムに見える人もいれば、ちょっと面白く見える人もいます。私の口ひげはどちらかと言うと面白く見えるほうなので、剃ってしまいました」 もしかなざわに選択の余地があれば、おそらくポンちゃんと同じような口ひげを生やしているだろう。
そのせいかどうかはわからないが、『おひげのポン』を愛するファンには、若者や子供だけでなく、ヒゲを生やした男性も多いようだ。
キャラクター制作の初期の頃、『おひげのポン』のストーリーをどのように表現したか遡って尋ねると、かなざわはセリフのないコマ割り漫画として描いたと答えた。
「最初は1コマ漫画から始めて、2コマや4コマの漫画を描いていましたが、最近、出版社と仕事をするようになってから、16ページの絵本にすることになりました。最初は言葉がなくてもキャラクターの顔を見れば分かるような形で物語を伝えたいと思っていました。音がなくても、読者が見たら、ポンちゃんが「え? この人をどうやって助けたらいいかな?」と考えているのが分かるようなコメディーです。この考え方は、言葉ではなくイメージで感情を伝えるということで、私が専門的に学んだことです。
優しいキャラクターにするというアイデアは、かなざわが幼少期に学んだことから来ており、それが『おひげのポン』のストーリーを伝える上でも常に指針となっている。「物語のインスピレーションは小学校の先生から得たものです。先生は、他の人にいいことをしてあげたら、そのいいことが自分にも返ってくると教えてくれました。これが私の本の基本的な考え方です」
「私が描いた本の重要なコンセプトは、読んだ人に同じようになってほしいということです。例えば、この本のキャラクターが他の人を助ける人であったら、読んだ人にも誰かを助けたいという気持ちを持ってほしいし、この本が温かければこの本を読んだ人にも温かい気持ちになってほしいです。このことは私がこの本を作成するに至った重要なポイントです」
どうやら彼の意図は現実のものとなっているようだ。ポンちゃんが思いやりを差し伸べて手助けをするのは、読者を感動させるだけにとどまらず、ポンちゃんの物語が好きな人たちが力を合わせて、そのユーモアあふれるかわいらしさを後の人たちに伝え、『おひげのポン』の思いやりに触れることができようにしているのだ。
「『おひげのポン』の絵本には、20代、30代の女性ファンのグループがいるんですが、興味深いのは、このファンの人たちが結婚後、自分の子供たちにこの本を買っている。こういう話をよく聞きます。両親がポンちゃんの物語を子供たちに伝えてくれているおかげかもしれませんが、私には小さな子供のファンもいるんです」
かなざわは明るく笑いながら私たちに次のように語ってくれた。『おひげのポン』を読んだり見たりした人がその作品を好きになってくれるのは、彼のようなキャラクターデザイナーにとって重要なことである。なぜなら、自分が作ったものが誰かに気に入ってもらえるとわかると、彼自身も晴々とした気分になれるからだ。
『おひげのポン』の楽しい物語がコマ割漫画となり、その後、絵本となって、日本、台湾、韓国で発売され、多くの人に知られるようになって以降、フィギュア、アートトイや、ノート、メモ帳、ステッカー、便箋をはじめとした文具など、さまざまなグッズが作られ、人々が購入して自分の手元に置いておけるようになったのを目にするようになった。
ポンちゃんとその仲間たちのかわいさは、有名ブランドにもコラボしたいと思わせるようだ。例えば、ニコアンド(niko and...)は、柔らかくて抱きしめたくなるような枕、人形、バッグ、洋服などを発売しているし、いずみ鉄道のラッピング車両は乗客を明るい気持ちで千葉県へ運んでいる。台湾の有名飲料メーカーとのコラボでは、自動販売機やお茶のボトル120万本に登場したり、ファミリーマートと提携して4000以上の店舗のディスプレイにも使われたこともある。また、町でCasetifyの『おひげのポン』柄のスマホケースを使っている人を見かけることもある。
『おひげのポン』は、東京・新宿の京王百貨店新宿店、台湾のキングストン書店、台北アートトイフェアなどに設けられたポップアップストアに出て行って、人々に会うこともある。また、東京の表参道ヒルズや台湾でも個展が開催されてきたが、今回、2024年12月5日から8日までセントラルワールド8階のcentralwOrld LIVEで開催されるバンコクイラストフェア2024に、『おひげのポン』の著作権を管理する代理店T.A.C.Cがかなざわまことを招いて、人気商品を販売するとともに、タイで初めて新しい着ぐるみのお披露目をすることになった。
今回着ぐるみを連れてきた理由についてかなざわはこう語る。「着ぐるみではなく、ただポンちゃんがタイの人たちに直接会いたいと思っていたんです」 ポンちゃんの代わりにそう答えると、かなざわは恥ずかしそうに笑った。
『おひげのポン』の感動的な旅は、かなざわ一人の力で成し遂げられたものではない。彼は、自身の作品において重要な役割を果たしたもう一人の人物について言及した。「私は絵を描くだけの人間で、デザインは何もできません。さまざまな商品のアートワークはすべて妻がやってくれました。時々、僕自身では選べない、決められないことがありますが、そんなときは妻に手伝ってもらっています」
「自分の仕事もブランドとの仕事も、どちらも楽しいです。自分の仕事をするときは、商品を見た人がどんなふうに感じるかなとか、あるいは自分自身が作ってみてどう感じるか、どんなふうに楽しいかということを考えています。他者と協力する仕事に関しては、私はプロダクトデザイナーを全面的に信頼しています。その人たちが責任を持ってデザインを担当してくれているからです。だから、結果がどのようなものになるか、私はドキドキしながら、楽しむことができています」
かなざわは、『おひげのポン』のファンに直接会いに行くことが多く、そのおかげで『おひげのポン』に対する人々の気持ちを直接感じ取ることができる。かなざわはその雰囲気について、目を輝かせながら満面の笑みで説明してくれた。
「私は絵を描くことが一番好きですけれど、自分が描いたものから生み出されてきたものを通して、いろんな人たちと出会えるのは嬉しいことです。若いファンからたくさんのファンレターを受け取りましたし、マーケット情報を知るだけでなく、私のキャラクターを好きになってくれるファンに会えるのはとても特別なことです。それによって、このあとどんなものを作ったらみなさんに私の作品に喜んでもらえるかを知ることができます」
自身の作品がさまざまな国に行く機会があることもまた、かなざわにとっては嬉しいことだ。「エージェントがさまざまな場所にポップアップストアを立ち上げてくれて、そこに人々が来て商品や作品に触れることができるのは本当に重要なことですし、私の本が海外でも販売されているということから、『おひげのポン』で私が伝えたいメッセージや物語が他の言語を話す人々にも届くんだということが実感できて、感動しています」
日本は、世界中で人気のある優れた作品を生み出した漫画家やキャラクターデザイナーが多くいる国である。かなざわも他の人と同じように、記憶の中にある登場人物とともに育ってきた。
「多くの人が言うように、日本はキャラクター大国です。私は子供の頃からさまざまなキャラクターを見て育ちました。そして今では、子供の頃におもちゃを買うお金がなかった人が、子供の頃の思い出や好きなキャラクターのフィギュアやステッカーを買ってコレクションすることができます。私もガンダムを買ってコレクションしています」
幼少期の思い出や教え、そして願いをもとに、ポンちゃんとその仲間たちのかわいくて心温まる物語を描いてきたかなざわは、今日のように日本や世界でたくさんのキャラクターがあふれる中で、『おひげのポン』にどのように成長してほしいと願っているのだろうか。
「日本のキャラクターは世界中に影響を与えていると思います。たとえば、海外に行って、外国人の友達がNARUTOやONE PIECEを知っていたら、外国人が日本のキャラクターを知っていることを誇りに思います。キャラクター業界全体としては競争が激しいと思いますが、『おひげのポン』は、売れるか売れないかに関係なく、ファンの中に長く残るキャラクターであってほしいと思っています」「最初は、私が絵を描いて、そして妻が商品をデザインするというように、私と妻の2人だけで働いていました。その後、代理店の協力を得て、さまざまな国のブランドや人々とのコラボレーションを実現することができ、そのおかげで、より広い範囲に仕事を拡大することができました。多くの方々のご支援とご協力をいただきながらやってきましたので、『おひげのポン』が海外でも成長し、ファンのみなさんとずっと一緒にいられるよう、私たちの役割を果たしていきたいと思っています。ポンちゃんには、日本のスヌーピーや日本のムーミンのような存在になってほしいです」
『おひげのポン』の物語は現在、かなざわの目標のとおり、さまざまな商品や本を通じて少しずつ語られていっている。最初の頃と比べると、かなざわの人生は大きく変わったと言える。「ポンちゃんと出会って私の人生はより充実したものになりました。ポンちゃんがいろいろな国に連れて行ってくれて、今日、みなさんと会えたように、たくさんの人との出会いをもたらしてくれました。ポンちゃんは私に大きな影響を与えています。ポンちゃんのかわいらしさが私にも伝わって、多くのいいことを私の人生にもたらしてくれました」
かなざわまことの人生に起こった変化だけでなく、このひげを生やした思いやりのある犬のポンちゃんとの出会いは、さまざまな形で愛や願いを送ることが、どれだけ私たちの心を温かくし、何を意味するか、私たちにも示してくれている。それを受け取ったら、今度は他の人にもそのいいものを伝えようではないか。
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ライター。楽しく過ごした時間は人生をよりよくしてくれるものだという確信のもと、空いた時間は、読書、映画鑑賞、音楽鑑賞、サイクリング、漫画、レゴなどに使う。