Escura:初のタイ人の手によるインスタントカメラ

    デジタルカメラの価格が安くなり、誰もが容易に手に入れられるようになった。また、携帯電話のほとんどの機種が性能のいいカメラを装備するようになり、誰でも楽に写真が撮れるようになった。その結果、写真愛好家が心配に思っているのが「フィルムカメラは絶滅しようとしているのか」という問いである。

    その問いへの答えは、LOMOのカメラの人気、そしてポラロイド以外にも富士フイルムのチェキ(instax mini)、lomographyのLomo'Instant Automat、ライカのゾフォート(Sofort)といった新しいインスタントカメラが市場に参入してきたことを見れば明らかである。

    多くのブランドが新世代の人のライフスタイルにマッチしたフィルムカメラに可能性を見出した以外に、香港のデザイナーと組んで、タイ人で初めてインスタントカメラを作成しようと立ち上がり、Escura(エスクーラー)という名のカメラを作り上げた人物がいる。このプロジェクトには4人のパートナーが関与している。ディーディーことサコン・ゴープクンブンシリ(Sakon Kobkulboonsiri)は、カメラを愛し、Crazy Cameraというフィルムカメラ販売店を開いた人物で、今回代表として私たちの取材を受けてくれているのが彼だ。そして、エことチャーッチャカート・ワイカウィー(Chardchakaj Waikawee)は、ガラスフィルムによる写真撮影を蘇らせたカメラマンで、フィルムの現像・焼き付けサービスを提供するAIRLABのオーナーである。彼は、ディーディーにカメラの話をしに来て、私たちと少し挨拶を交わしてから仕事へと戻っていった。この2人がタイ側のメンバーである。香港側はデザイン会社CARBONのグレー・リョン(Grey Leung)とエリック・リョン(Eric Leung)の2人で、彼らはポラロイドSX-70を小型化し、ひと昔のような撮影気分が味わえるようなデジタルカメラOne Miniをデザインした経験を持つ。この4人が協力して、プロジェクトを立ち上げ、クラウドファンディング・キックスターター(Kickstarter)で出資を受けてEscura Instant-60sを作り上げた。努力の甲斐あって、初代機は、初期ロットの支援者のもとへ予定通りに発送できるよう、現在、鋭意生産中である。

    Crazy Cameraの店内には、棚いっぱいにカメラが並んでいる。ディーディーがフィルムの棚を横切り、Escura Instant-60sのオリジナルモデルを持ってきて見せながら、その機能と使い方を説明してくれた。インスタントカメラを持っている人、使ったことがある人なら、手に取っただけですぐに使えるに違いない。このカメラは、富士フイルム・チェキのフィルムを使用する。フィルムをセットし、ノブを回してフィルムカバーを取り出すだけで撮影準備は完了。露出はf/8とf/11の2つ、シャッター速度は1/100秒あるいはバルブ撮影に設定できる。

    「シャッターケーブルをつけることもできますよ。もうひとついいところは、多重露光もでき、ノブを回してフィルムを出すまで、クリエイティブな効果を作り出すことができるという点です。それだけです。すごくシンプルで、ただカメラ本体があるだけ。アクセサリーとしてフラッシュがあって、フラッシュなしカメラのみのタイプとフラッシュありのタイプの2タイプを販売しています」

    このカメラと他のインスタントカメラの違いは、このカメラの魅力的な特徴でもある、電気やバッテリーを使わないアナログカメラであるという点だ。シャッターを押したあとは、自分の手でノブを回してフィルターを出さなければならない。

    「どうしてインスタントカメラを作ろうと思ったかというと、フィルムカメラを使っている人とデジタルカメラを使っている人をつなぐものになると思ったからです。デジタルカメラを使っている人は、おそらく遅いという理由でフィルムカメラを敬遠しがちです。でもインスタントカメラなら撮ってすぐにシェアできます。アナログとデジタルは結びつけられるんだということ、そしてフィルムカメラはまだ絶滅していないということを、みんなに知ってほしかったんです」

    カメラを販売している者の一人として、彼はアナログカメラが好きな人の経験について語ってくれた。アナログカメラは電気を使わない。しかし、長く使われてきた古いカメラは新しいカメラと比べると、実際に使おうとすると壊れてしまう可能性が高い。一方で、アナログというのは、どんなタイミングでも使え、使用感が味わえるし、撮影している人もカメラを使っている感じをより強く意識できる。そして、電気回路がないアナログの特性を生かすと、バッテリーの必要もなくなり、そのおかげで市場に出回っている他のインスタントカメラと比べても安いカメラを作ることができたのだ。

    「ビジネスマンらしくない考え方だったから、できたんですね。人生の中で、自分のカメラを作れる機会なんて、めったにないですよね。作ってみたいけど、道具、人材、機械がそろっていないという人は多いと思うんです。僕自身も、Escuraが完成して販売してみたときに利益があるかどうかはまだわかりません。それでも作りたかったんです」

    このカメラが人々の興味を引きつけるのは、デザインやファンクションだけでなく、手の届きやすい価格もまた、このカメラを買おうとする人の決め手のひとつになっている。

    製造についての知識、アイデア、努力、そしてタイのカメラを作りたいという熱い想い以外に、このカメラが現実のものとなったのには、カメラのデザインを手がけた経験をもつパートナーの存在も大きく影響している。

    「僕たちの友人であるグレイさんは、才能がある人です。デザインが得意で、アイデアを説明したりシェアしたら、僕たちの望む通りにデザインしてくれるんです。別々の国にいても問題はありませんでした。今は飛行機であっという間に移動もできるし、常に相談し合うことも可能です。会議はLINEグループでしています。常に顔を合わせていなくても仕事を進めていけます」

    とはいっても、カメラ作りというのは簡単ではない。ディーディーはこのカメラができるまでを簡単に語ってくれた。

    「ひとつのカメラを作り上げるのはとても難しいですよ。僕はカメラ全部を知ってるけれど、製造するとなると、内部の何百という部品が要ります。それをたくさんの工場に発注しないといけません。それが難しいことのひとつでした。それからデザインについて、こんなことがありました。この工場はできるけど、もうひとつのところではできない。だからモデルができあがるまでに少しずつ調整していく必要がありました。今は、3Dプリンターがあるから実物を発注する前のモデル作りは楽になりましたね。実際にモデルからちゃんと作ってたら、きっとお金がいっぱいかかっただろうと思います」

    デザインが終わって、モデル機ができたところで、クラウドファンディングサイト・キックスターターでプロジェクトを立ち上げた。そしてすごい勢いで出資金を集めることができ、現在Escuraは、出資者の元に届けるべく、1000台以上を生産中である。また、将来、このカメラを買いたいと思った人のために、質的な改良も進めている最中だ。

    「これまでのところ、大きな問題はありませんでした。なぜなら、問題があったらすぐにひとつひとつ解決してきたからです。これから問題となってくるのは、むしろ出資してくれた人たちの期待との兼ね合いだろうと考えています。出資してくれた人たちが失望しないかと心配ですね。今、次の改良点として取り組んでいるのは、レンズなどの内部の部品ですね。出資してくれた人が、出したお金に見合うだけの満足を得られるようにしたいです。クラウドファンディングのいいところは、フィードバックをたくさんもらえることですね。出資者のみなさんがこのカメラにどんなものを期待しているかについて意見が聞けます。その期待されている機能は、今の機種には実装されていない場合もあるでしょうが、次の機種では実装できるかもしれません。そんなふうにして、買ってくれたみなさんと一緒に成長していきたいなと思っています」

    このカメラに関心を持たれた方は、しばらくの辛抱だ。出資者の元へ商品を発送し終えたら、一般の人も低価格でこのカメラを手に入れ、写真を撮れるように、Escuraの生産・販売が開始される予定だからである。

Dusita Imarom

ライター。楽しく過ごした時間は人生をよりよくしてくれるものだという確信のもと、空いた時間は、読書、映画鑑賞、音楽鑑賞、サイクリング、漫画、レゴなどに使う。